『闇の守り人』『夢の守り人』2012/09/06 21:40

上橋菜穂子さんの『闇の守り人』と『夢の守り人』も読みました。

『闇の守り人』

女用心棒パルサは亡き養父ジグロの汚名をはらすため、25年ぶりに生まれ故郷カンバル王国に戻ります。なぜ養父が地位や名誉を捨て、パルサを守り国を出たのか、その謎が明らかになっていきます。

この話でも現実とは違うもう一つの国(地底の国)が描かれ、死者たちがその国の住人です。パルサと死人ジグロとの戦いは圧巻です。傷つけあいながら、身体と魂が交錯するような感覚・・、とても不思議で美しい。死者を弔うこと、自分のルーツを探ること・・・それらが重なり、パルサの抱えていた心の闇がjほどかれていきます。

『夢の守り人』

人の夢(満たされない思い)を糧にして育つ花。その花が繁茂する異界にとらわれてしまった人びとを救うため、パルサとチャグムが立ち上がります。花守り(鬼)に変えられてしまった幼なじみタンダとパルサの戦いが切ないです。異界と現実のあわいに住む呪術師トロガイの意外な過去も明らかになります。


夏休み図書館は盛況でした。なんと1日400名いらっしゃる日もあります。涼みに来る方もいらっしゃる。すきな本を広げ、それぞれテーブルに座る位置も決まっていて・・。本とともに生活になじむ快適空間を作り出すお仕事。図書館の仕事は楽しい!

『なずな』堀江敏幸2012/09/18 20:59

堀江敏幸さんの『なずな』を読みました。

弟夫婦が交通事故・病気で入院となり、その赤ん坊を一時預かった男性の育児小説です。男性の名前は菱山秀一。44歳、独身。伊都川市という地方都市で小さな新聞社の記者をしています。赤ん坊がくることで菱山の生活は一変します。女の人と違い、母子が密着していないからかもしれませんが、なずなと名付けられた赤ん坊との関係は、とても自由でおおらかで風通しのいいものです。愛情に満ちた柔らかな観察眼。鳴き声や手足の動き、顔の表情・・、細部まで日々変化するその様子を菱山はそっと見守り続けます。

また、主人公を取り巻く環境もなずなとの生活によって変わっていきます。飲み屋のママさん、小児科医一家、マンションの管理人さん・・、なずなを通し、今までふれあうことのなかったそれらの人びとと温かく関わっていきます。

なずなの成長とともに地方都市のちょっとした事件、時間のゆるやかな流れが描かれていくのも心地よいです。

まどみちおの詩が印象的に引用されています。なずなを守っていたのではなく、なずなに守られていたんだと気づく菱山。

刺激的な事件や、人間関係が劇的に生じる・・、そんな物語ではないですが、忘れそうなささいな時間の大切さを教えてくれる、ささやかかな瞬間がとても大きな永遠に通じる、輝きに満ちた小説です。