精霊の守り人2012/07/25 14:19

 たこぶね読書会の課題本になっている上橋菜穂子さんの「精霊の守り人」を読みました。

 「精霊の守り人」は新ヨゴ皇国という架空の世界が舞台になっている壮大なファンタジーです。この国では、もともといるヤクー人、隣の王国から来たカンバル人、250年前に移住し新しい王国を築いたヨゴ人・・。様々な人種が住み、それぞれの言語、神話を持っています。また、不思議な世界観なのですが、目に見える普通の世界サグと目に見えないナユグの世界が共存しあっています。

 ナユグに住む水の精が新ヨゴ皇国の皇子チャグムに卵を産み付けたことから壮大な物語が始まってしまいます。この水の精の卵が孵ることで大雨が降り、干ばつから人々が助けられるのですが、ナユグに住む化け物(卵食い)が、卵をねらってサグに姿を現し皇子を襲います。また、ヨゴ王も水の精を倒したとされる建国王の名誉と国の威信のため、息子を狩人たちに追跡させます。

 偶然川に流されおぼれかかったチャグム皇子を助けた女用心棒のパルサ。二人の活躍を中心に手に汗握る戦いと冒険のファンタジーが展開します。

 水や自然、両世界のいきものの描写がおもしろく。ナユグとは、アニミズム的な世界を言っているのではないでしょうか。木や花、川の流れ総てに命があふれ、何かが宿っている。そして、それらが命の循環となって力強い世界があふれていく。ナユグの世界を感知できる先住民ヤクー人の言葉は魅力的です。古代からの言い伝えや神話、祭りの歌が水の精の秘密や化け物退治に関わってくるのも、遠いところから届く言葉を追っているようでわくわくしました。

『雲の人びと』ジェミア&ル・クレジオ村野美優訳・『f植物園の巣穴』梨木香歩2012/07/25 16:53

『雲の人びと』(ジェミア&ル・クレジオ著・村野美優さん訳)を読みました。

 ル・クレジオが妻ジェミアの祖先の地、西サハラへと旅するお話しです。果てのない砂漠をひたすら横断する日々。岩の、石の、言葉を刻むように作家は旅を続け、身体に風土を人との出逢いを記憶していきます。移動しつつ、現実を越えて原初的な人々の営みの中へ、伝え聞く神話の世界へ。一体となって帰還していくのです。主役はあくまでも砂漠。今まで妻から語り聞かされた世界がやっと現実の血肉となって作家の中に到来していきます。過去や未来も交ざる至福の時間が訪れるのです。翻訳の詩的で美しい言葉が広大な世界を生き生きと再現させてくれます。挿入された写真もその地に誘ってくれるようで魅力的です。

 「こうして谷の隅々を読み取り、それらを身体に記憶し、その変化や 色の変移を推しはかり、雲の様子を、西に筋雲を、南に軽やかな羊雲を、東の方、錆びた水中の景色のように緑っぽく曇った地面の上に、膨らんだ青白い斑点を窺うことで、わたしたちは何日も、何ヶ月も、何年も過ごすことができるであろう。
  遊牧民と定住者(つまり都会人)を分かつもの、それは船上の船乗りや、氷上のエスキモーの能力、すなわちほかの者には虚空しか見えない場所で、わずかな変化に気づき、多様なものに感じ入ることのできる能力である。ここでわたしたちは何もかも学ぶ必要がある。」
         (本文より引用)



梨木香歩さんの『f植物園の巣穴』も読みました。

 植物園の椋の木のうろに落ちた園丁である「私」。うろの中には川が流れ、その流れをつたっていくと幼ない頃住んだ家の門前にたどりつきます。死んだはずの懐かしい人たちや不思議なしゃべる動物たちが現れ、時間が現在と交じり、まき戻り、異世界の扉が開かれるのです。

 川をつたい異世界を旅することで意識的に忘れていた大切な人々の思い出が死が「私」の中に蘇ります。辛い体験を受け入れることにより、「私」の意識は他者へと注がれ、前向きに開かれていくのです。

 そして最後には「私」にとって嬉しい知らせが・・・。このお話も生命の源泉を言葉の力で探ろうとする一つの長い旅だと思いました。